自作自演。ジャケ写にある通り、アコースティック録音である。2011年にLani Spahr氏がSPから復刻した盤。（原盤：HMV D578, D582, D602, D596。）Lani Spahr氏はアメリカ出身のオーボエ奏者のようだが、復刻エンジニアでもあるようだ。この人のエルガー自作自演のSP復刻はSOMM Recordingsレーベルからも出ているが（SOMMCD 261-4）、そちらは疑似ステレオ化されているものが含まれ、かつエニグマは抜粋のようである。こちらはモノラルだが、エニグマは全曲揃っている。早速聴いていく。…さすがに、こりゃあ録音が古い…。だよなぁ…。100年前ですよ。100年前。ヴァイオリンは全くヴィブラートをかけていない。正にこれが1920年頃の録音であることを如実に示している。（1938年のウィーンフィルでもまだヴィブラートはかけられていなかったという。ヴィブラートという奏法がなかった訳ではないのだが、「邪道」だと言われていたのだ。）…しかしホントに「おもちゃの楽器の音」みたい…。ジャケ写のようにでっかいラッパ型の集音器で音を拾うのだが、やはり大規模なオーケストラの録音は非常に難しかったという。また、録音だけでなく演奏のレベルも大変低い。（わざと素人に演奏させて一種の「意外性」を狙った「ポーツマス・シンフォニア」ほどにはヘタではない。）現代のオケがどれだけレベルが高いか、改めて分かるなぁ…。…あ！第12変奏 "B.G.N."のチェロ独奏はちゃんとヴィブラートをかけている！へー…。フィナーレはそれなりに面白いが、「藝術作品」としての価値はあまり大きくない、と言わざるを得ない。エルガーの自作自演を聴くなら、5年後の電気録音の方が遥かに良い演奏・録音である。しかし「1920年頃の作曲者の自作自演」という「記録」としての価値は大変高く、この曲が好きな私としてはやはりマストアイテムだ。
　なお、複数のSPにまたがった録音なのに、音質が見事に揃っており、これは復刻を担当したSpahr氏の手腕の高さを感じる。…本CDには有名な「威風堂々第1番」も入っているのだが、大変テンポが遅く、面白い。しかし原曲に忠実でなく、聴かせどころだけをピックアップした「ダイジェスト」になっており、しかもかなり曲をいじっている。（全曲普通に演奏するとSP1面に収まらないので、仕方なく編曲したのだと思われる。）それより遥かに長いエニグマを全曲省略せずに録音してくれたのは大変嬉しい。（変奏曲故に、1楽章が短いのが功を奏した。SPは1枚5分しか入らないので。）
（★★★★）

　本録音の存在は、ツイッターでDさんから教えていただいた。教えていただいたのは海外のPRISTINE CLASSICALのダウンロード音源だったが、ググったところ老舗のMusic & ArtsからCDが出ており、廃盤だったがHMVに中古があったのでそちらを入手。Dさん、いつも本当にありがとうございます！もしかしたらダウンロード音源の方も買うかも知れないです！

　Spotifyはこちらとこちら。自作自演。1920年代はもう電気録音が実用化されていた時代であり、音質は良い。SPからの復刻だが、音質は針音を除けばかなり良い方である。充分鑑賞に堪える。（原盤：CR 339-1A、340-1A、341-3、342-1A、343-1、344-1A、345-2A。）主題と第1変奏。…遅く、実に、実にメランコリックである。弦には、この時代では当たり前だったポルタメントを使わせて叙情的に演奏させている。その後も基本的には遅いテンポを主体とし、非常に丁寧な演奏が続く。ニムロッドも弦のポルタメントが多用されている。…21世紀の今、こうしたポルタメントを使う指揮者はほぼ絶滅してしまった。（私は別にポルタメントを偏愛している訳ではない。）第11変奏は猛烈なスピードであり、メリハリが効いている。フィナーレの熱中度も高く、これを最新録音で聴いたらどれだけ感動するだろうか…。エルガーは指揮者としてのキャリアもあり、決して「素人指揮者」ではない。ましてや自作自演である。気を抜くはずもなく、本録音はエルガーが自作に込めた思いを直接聴き取ることができる貴重なドキュメントである。
（★★★★☆）

　ハーティは1879年イギリス生まれの作曲家・指揮者。BBC盤、Pristine Audio盤いずれも78回転SPレコードからの板起こしとある。1932年（これは1930-31年が正しいらしい。この記事やこのページで「Harty」のキーワードで検索）の録音、かつSPの板起こしにしては随分と音質がいい。静かな部分ではスクラッチノイズがあるものの楽音が鳴っているところでは殆ど気にならないレベル。BBC盤は疑似ステレオ化され、低音のブーストやイコライジングによる音質向上等の化粧が施されているため、「1950年代後半のステレオ録音」と言われても誰も気付かない可能性がある。Pristine盤も大変音が良く、こちらは余り厚化粧ではなく、よりナチュラル。
　ハーティの指揮はなかなか凝ったもので、緩急のバリエーションが豊か、かつオケも活き活きとしているため、前述の「化粧」もあり、殆ど不満を感じさせない。（但し、これは指揮者の責任ではないが、低音のブーストがやや過剰で、「ボワーン」という感じなので、そこだけは勿体ない。）第11変奏のダンが駆け回るスピードはかなりのもので、指揮者は明らかに「ノッて」いる。こういうところは加点に値する。フィナーレもかなりの「ノリ」が伝わってくるので、自然とこういう演奏は「応援したくなる」。…こういうふうにして欲しいのである。「感情を込めて」欲しいのだ。にんげんだもの。
　⇒後からPristine盤を買って聴き直したが、第7変奏のトロイトの元気の良さとプレスティッシモ具体が物凄く、評価を満点以上の5.5点にアップ。とにかく「濃ゆい」。また、ハーティ作曲の曲も2曲含まれているが、どちらも大変素晴らしく、作曲家としても一流だったことが分かる。こういう人はもっと称揚すべきだ。また、復刻の質から言うと明らかにPristine盤に軍配が上がる。Pristine盤は現役盤なので是非こちらを。
（★★★★★☆）

　なお、BBC盤は全曲が一つのトラックになっているところは「ちょっと手抜きだな…」と思うものの、それもやはり指揮者のせいではないので、評価には何の影響も与えない。…ん？もしや…と思って、インデックスが認識・頭出しできる1989年製プレーヤ（我が家では現役）に入れてみたところ、やはり…。ちゃんと主題以降、変奏毎にインデックスが割り振られていた。…本CDは℗©1990であり、その当時はインデックスで頭出しできるプレーヤが主流だったため、トラックではなくインデックスで分けたのだ。…しかし、PC用のCDプレーヤも含め、世の中からインデックスを認識・頭出しできるプレーヤが消えてしまい、大変不便である。インデックスで頭出しできないプレーヤは、コンパクトディスクというメディアのプレーヤとしての要件を完全には満たしていないと言えるのでは？…困ったものだ。⇒これは別メーカから出ている盤ではインデックスでなく、ちゃんとトラックに分けられているものもあるそうだ。⇒ということで、英国音楽愛好家、M様から教えていただいたPristine Classicalが出している復刻音源を買った。上記の通りBBC盤よりこちらの方が復刻が上手いのでオススメ。なお、ファイルダウンロードの方が安いが、敢えて私は高いCD-Rの方を買った。CD-Rは意外と寿命が長く、20年以上前に秋葉原で買った海賊盤CD-Rが、2021年の現在でも全く劣化せず読み取れることが分かったからだ。これは、私が所有CDをすべてハードディスクに保存する作業の中で、そうした20年以上経過しているCD-Rをラックから取り出して聴いてみたところ、今の所、一枚も劣化して聴けなくなったものがない、という経験による。…CD-Rは、例えば真夏のクルマの中のとか直射日光には非常に弱く、そうした環境ではすぐに読み取れなくなるが、日光の当たらない室内に保存しておく分には、プレスCDに匹敵する寿命があるようだ。
　また、後から買ったPristine ClassicalのCD-Rのジャケットはインクジェットプリンターで印刷したものであり、サイトで公開しているPDFとは随分と色味が違う。こちらが実際のCD-Rに付属してきたジャケットのスキャン画像（当然スキャン後に実際の色味に合わせて調整している）、こちらがPDFをハードコピーしたもの。あちらさんの印刷環境では元のデザインの色味をうまく再現できなかったようだ。

　Spotifyはこちら（多分。ドビュッシー「海」とのカップリングで、それはこのボックスにもBBC響との演奏として含まれているので、一応信用することにする）。1935年6月3日のライヴ録音。この年がトスカニーニの英国デビューの年だという。…何と85年前の録音だ。（これを書いているのは2020年。）しかしビックリするほど音がいい。勿論モノラルだが、スクラッチノイズのような音が微かに聴こえるだけで、充分鑑賞に堪える音質である。BBCなので放送用の録音だと思うが、1919年にはサウンドカメラという光学的な音声記録方式が発明されているので、そうした録音かも知れない。SPからの復刻ではここまで高音質にはできないのではないか。英語のライナーノーツに一通り目を通してみたが、録音方式についての記載は見つけられなかった。なお、本CDボックスは6枚組で、全てBBC響との演奏だが、本録音とブラームスの4番が1935年6月3日の演奏で、一番日付が古い。…もしかしたら英国デビュー当日のライヴ録音かも知れない。（挨拶代わりに、一番最初に英国のエルガーを採り上げたのだ、ということだとすると合点がいく。）
　演奏もかなりよく出来ている。主題と第1変奏はちゃんとメランコリックなのだ。トスカニーニというと直情型の一本調子な演奏しかできないと思っている方もいるかも知れないが（私もだいたいそんな感じに考えていた）、本録音はそれが誤解に過ぎないことを教えてくれる。変奏毎に適切な緩急を付け、表情豊かに描き分けている。BBC響のトスカニーニへの献身度も全く問題なく、喜んでトスカニーニに奉仕している。トスカニーニは1867年3月25日生まれなので、演奏当時68歳。まだまだこの先、1954年まで指揮を続けることになる。…肝心のニムロッドなどはもう少し丁寧にやってくれてもいいな…。第13変奏の遅さは充分で、しっかりと次のフィナーレに向けたタメを作っている。クラリネットの逡巡はかなりの深刻度だ。素晴らしい。フィナーレも、個人的にはもう少し凝って欲しいな…と思わせつつ、しかし水準以上の熱中度できっちり仕上げている。演奏終了後はブラヴォーの嵐だ。聴き終わって感じるのは「曖昧さ」「迷い」が一切ないこと。やはりトスカニーニという人は凄かったのだな…。是非全盛期を生で聴いてみたかった。（私が生まれる前なので、タイムマシンがないと実現不可能だが。）
（★★★★☆）

　モノラル・セッション録音。これがボールトの一回目の録音だろうか。アビー・ロード・第一スタジオでの録音。アビー・ロード・スタジオは1931年にオープンしているので、まだ開設してホヤホヤだ。（もっとも、元のジョージアン様式の建物が竣工したのが100年前の1831年であり、それを増築・リノベーションしてスタジオに仕立てたのだが。名称も当時はまだ「EMI Recording Studios」だった。1931年11月のオープン・セレモニーを振ったのが正にサー・エドワード・エルガーその人であった。）
　演奏だが、モノラルと雖も充分鑑賞に堪える音質であり、流石に高音や低音のレンジは狭いが、この時代の録音としては高音質な方である。音切れ等も皆無であり、流石はEMI、歴史あるレコード会社だけのことはある…と思わせる。（欠損や瑕疵はちゃんとディジタル技術で修復していると思われる。）ボールトは録音当時46歳！若い！演奏もかなり「若々しさ」が出ている。各変奏の表情付けは充分凝っているが、後年の録音より概して速めのテンポであり、じっくりと腰を据えた演奏というより、「疾走する青春！」みたいな味付けである。この時点でボールトはまだ人生の半分をちょっと過ぎたところであり、「まだまだ血気盛んな壮年期」のボールトの棒を聴くことができる。フィナーレの元気の良さも天下一品であり、（…何度も言って恐縮だが）21世紀の『マエストロ』達に、「…これ聴いてみ？…分かる？80年前でこのレベルよ？あんたらさぁ、もう少し頑張った方がいんじゃねーの？」と、嫌味な説教の一つも打ちたい欲求に駆られるというものである。
（★★★★★）

　1938年5月21日にNBCで放送された録音。当然元はモノラルだったはずだが、疑似ステレオ化されている。Pristine Classicalは元BBCラジオのサウンド・エンジニアであったAndrew Rose氏が2002年にフランスで設立した、ヒストリカル録音の復刻を専門とする会社。2005年からこちらのサイトで、ストリーミング、ダウンロード音源販売、CD-R販売を行っている。ダウンロード音源は、24bitのFLAC、16bitのFLAC、320kbpsのMP3から選べ、CD2枚分のMP3が14英ポンド、24bitのFLACが30英ポンドとなっている。ストリーミングはFLAC音質とMP3音質が選べるが、残念ながらギャップレス再生には対応していない。（…これは大変残念だ。クラシック音楽のサブスク・ストリーミングでギャップレス再生ができないのは、私は「致命的」だと思う。）ちゃんとアタッカが繋がった状態で聴きたければ、ダウンロード音源を買うかCD-Rを買うしかない。ストリーミングは、ある意味、ダウンロード音源やCD-Rを買うかどうかを決めるための「お試し機能」として位置付けられているのかも知れない。（ストリーミングも勿論無料ではないのだが…。最初の10日間だけは無料である。）⇒その後、24bitFLAC（44.1kHz）を購入した。エニグマは曲全体がほぼアタッカなので、ギャップレス再生できないストリーミングでは面白くない。
　閑話休題。ボールトはNBC響の指揮者であるトスカニーニがほぼ最初に呼んだゲスト指揮者とのこと。（これより前に、トスカニーニはイギリスのBBC響に招かれて指揮しており、その返礼的な意味もあるだろう。）本音源はレーベル創設者のローズ氏がリマスタリングしている。前述の通り疑似ステレオ化されており、音質は1938年とは思えない程良い。高音方向、重低音等もイコライジングされているが、低音は不自然な域までには伸びていない。但し高音方向はかなり伸びており、少し音がキンキンしている箇所がある。NBC響は本録音の前年の1937年に創設されたばかりであり、既にイタリアに帰国していたトスカニーニは自分の代わりに、クリーヴランド管弦楽団で音楽監督を務めていたアルトゥール・ロジンスキに「オケのメンバー選抜と基礎練習」を任せており、トスカニーニがNBC響を初めて振ったのは1937年のクリスマスだったという。…肝心の演奏だが、やはり幾ら指揮がボールトでも、オケが手兵でないNBC響（アメリカのオケ）なので、あまり強い「個性」を刻みつけることができている、とは言い難い。若いボールトにしてはかなり無難な部類に含まれると思うが、1938年でこのレベルなら相当なものだろう。オケも大変上手く、技術的には超一級だと思う。但し、満点を与えるにはやや物足りない感がある。4.5点としておく。⇒その後、24bitFLACを買って聴き直した。…うーん…。やっぱりちゃんとアタッカが繋がった状態で聴き直すと、「本当に4.5点でいいのか？」という内なる声が…。メリハリは効いてるし、ニムロッドの「優しさ」も特筆すべきでは…？また、NBC響という客演のオケでここまでやったボールトを褒めないのはおかしいのではないか…という印象に変わってきた…。フィナーレ開始部のテンポの遅さとクレッシェンドの威力は凄まじく、その後の展開と充実度も群を抜く。…やはりこれは満点未満はあり得ないな…。スミマセン、これは満点超えに変更します。（最初の4.5点は、時間に余裕のない状態で「急いで」聴いたことも関係しています。また、音がブツブツ切れるストリーミングで聴いたことも原因です。…やっぱりギャップレス再生は「必須」だと思います…。）
（★★★★★★）

　本録音の存在は、いつもお世話になっているD様からお教えいただいた。いつもありがとうございます！m(_ _)m

　1940年2月29日（閏日）のライヴ録音。…SP音源を繋げているのだろう、変奏の境で急に音質が変わる。（たった30分の曲だが、全曲収録するには何枚ものSPが必要だったので。通常、SPレコードは片面5分程度しか収録できない。）…演奏だが、コンセルトヘボウはボールトを拒絶してはおらず、従順な演奏を繰り広げている。ニムロッドの実に丁寧な演奏が光る。流石この時代だけあり、ニムロッドでも弦のポルタメントを聴くことができる。全曲にわたって闊達な、表現意欲に満ちた演奏であり、推薦したい気持ちも強いが、録音が良くないこと、オケのレベルがそれ程高くないこと、今ひとつしゃんとした演奏になっていないこと（全体的に少しフラフラしていて安定感がない…これがホントのダッチロール？）などから、満点は避けることにする。
（★★★★☆）

　イギリスの指揮者ビーチャム卿が、第二次世界大戦中の1941年から1944年までの間、シアトル響の音楽監督の地位にあったことは余り知られていない。戦時中だったので、公式の録音がほぼ全く残っていないのだ。本録音も、元はアセテート盤だったが、それがオープンリールテープに、そして更にコピーされたカセットテープがソースである。（アセテート盤もオープンリールテープも、もう再生不可能だそうだ。…何しろ今から78年前の録音なのである。）そのソースから、Pristine Classicalの創設者であるAndrew Rose氏がリマスタリングし、16bitFLACに仕立てた。（モノラルのままの24bitFLACも売られているが、私はRose氏の疑似ステレオ化技術を信じ、ステレオの方を買った。）こちらで売っている。
　閑話休題。おお…やっぱり所詮はアセテート盤、そしてコピーを重ねた挙げ句のカセットテープ…。本当に時代相応の音だ…。但し、演奏内容は大変良い。…こんなに悪い音質でも伝わってくる、ビーチャムの細かなオケへの指示。大変エスプレッシーヴォな演奏だ。弦の実に美しい肌触り。（粗悪な音質でも、それはちゃんと伝わる。）変奏ごとの、実に丁寧で的確な描き分け。…こんなにもレベルが高いとは…。…ほらぁ。ほらね。…ビーチャムは凄い人なんだってば。唯の大金持ちのバカ息子じゃないんですよ。この人は真の藝術家だった。この演奏がそれを証明している。現代のその辺の凡庸な指揮者とは、まるで比べ物にならない。才能が全く違う。ニムロッドを聴いて御覧なさいよ。…このレベルの高さ。ここまで出来る人って、現代にはあんまりいないですよ？…おっと。残念ながらニムロッドの次の第10変奏の冒頭が消えちゃってるね。…これは流石に仕方ないでしょう。これは恐らくですが、編集ミスではなく、ソースに最初からなかったんだと予想します。78年前の録音なのでねぇ…。「Producer's Note」にも「カセットじゃなくて、元のアセテート盤自体に摩耗や損傷があったので、音声の一部が失われている」とあります。併録のマイスタージンガー序曲は4秒間もダメな部分があったので、仕方なく別の録音を「ディジタル的にエージング」してかけはぎ（patch）した、と書かれてます。（…本当に洋服や着物、大昔の絵画やフレスコの修復のようですね…。）…とにかく！ビーチャム卿が「唯の金持ちのボンボンではなかった」ことを知るための貴重な、歴史的録音だと思いますよ。…つか、現代の指揮者、もっと頑張ってくださいよ。楽隊に日和って、如何にも無難な演奏を量産してる場合じゃないと思いますがね。…作曲家が天国で泣いてますよ。
（★★★★★★）

　Decca原盤。SPレコードからの復刻だが、針音は極力取り除かれ、疑似ステレオ化・重低音増強・エコー付加されており、音の鮮度は高く、SPからの復刻であることは俄には信じ難い。（チリチリ…という低レベルのスクラッチノイズは聴こえる。）なお、ナショナル交響楽団はアメリカのワシントン・ナショナル交響楽団ではなく、イギリスのオケである。ちゃんとウェブサイトもあるが、何故か英語版ウィキペディアに記事がない。ツイッターのアカウントもある。…これは不思議だ…。ツイッターの自己紹介に「フリーランスのオケ」とあるので、つまり特定の団員を抱えず、自由契約によりその時その時で異なる団員を集めて演奏する臨時編成オケだからかも知れない。…そうした団体が「ナショナル」を名乗るのは凄いな…。だからウィキペディアに載せて貰えないのかも知れない。
　閑話休題。演奏だが、オケのレベルも充分高く、サージェントなのでオケの表情付けもかなりメリハリがあって面白い。但しこの人は決して情に溺れたりはしない、強靭な精神の持ち主なので、ニムロッドなどは余り味わい深い演奏とは言えないが、例えばフィナーレのような輝かしい「晴れ」の音楽はほぼ「最強」の威力を発揮する。…しかし1945年録音のモノラルSPをここまで輝かしい音に「復元」（…いや、「化粧」だろうか）できるなんて凄い…。過去のSP録音は全てダットンにこの方式での復刻をお願いしたいくらいだ。
（★★★★☆）

　1947年5月12日の演奏。HMV（EMIの前身）からは発売されていない盤とのこと。演奏場所はマンチェスター、ホールズワース・ホール（Houldsworth Hall）とある。この建物はマンチェスター大学付属施設のHulme Hall（William Hulme, 1631-1691。ウィリアム・ハルム or ヒュームという人物）にゆかりのHulme Hallの一部である、1907年竣工のエドワード朝様式の会場である。
　閑話休題。未発売音源とのことだが、SPから復刻したと思われるスクラッチノイズが感じられる。（磁気テープとは違うノイズの感じがする。）しかしかなりキレイに取り除かれており、また疑似ステレオ化されている（左右への音の拡がりを持たせている）ため、聴きやすい。しかし残響はこれは後付けだろう。また、圧縮音源らしき音の丸っこさがある。一旦MP3等にしてしまい、そこからCD化したような気がする。（なお、勿論プレスCDではなくCD-Rである。…こんなプライヴェット盤をプレスCDで出せる時代ではない。如何にも「プレスCDです」といった凝ったラベル印刷がされているが、演奏面を見ればすぐにCD-Rだと気付ける。PCで盤を調べたところ、メーカー名が「TDK Corp.」であると出た。（TDKはTokyo Denki Kagaku Kogyoの略であり、日本発祥のメーカーである。）…まあそこは問題ではない。）なお、録音は完全にプロの仕事であり、おそらくHMVの録音技師がちゃんとした機材で手間暇をかけて録音したものの、諸事情でお蔵入りになった音源だと分かる。「シロウトが片手間で録音した」ようなものでは全然ない。…録音を聴いた後にライナーノーツを読んでみたが、やはり以下のようなことが書かれていた。

This album contains something of a scoop in that the recording of Elgar's Enigma Variations was made on 12 May 1947, the first time Barbirolli recorded the work. For some undiscoverable reason, the discs were never issued and the work was re-recorded on 23 October of the same year (reissued on CD by the Society on CDSJB 1017.)

このアルバムには、バルビローリが初めてこの作品を録音した1947年5月12日のエルガーのエニグマ変奏曲の録音が収録されている点で、ちょっとしたスクープであると言えます。我々が知ることのできないなんらかの理由で、ディスクは発売されず、同じ年の10月23日に再録音されました。（その再録音のCDは、バルビローリ・ソサイエティによってCDSJB 1017で発売されています）。

　1947年10月23日の演奏。演奏会場はロンドン。HMVからSPとして発売された盤。中央のオーパス蔵盤が一番最初に買った盤。SPレコードからの板起こし盤。原盤は「HMV 2EA11926-32」とのこと。（7枚か…。SPは当初は片面のみだったので、1枚で5分として、5×7＝35分。ちょうど収まる。）針音はあるが、ほぼ同じレベルで「ジー」と入っているだけであり、グルーヴの傷みによる「ブツ」みたいな音は一切入っていない。（ディジタル編集で取り除いているのだろう。この「ジー」という音も取り除けなかったのだろうか…。それとも、この「ジー」を取り除いてしまうと「SPを聴いている感じ」が皆無になってしまうので故意に残したのだろうか。）音自体は今から70年前とは思えない程フレッシュであり、ホールエコーは後付だろうが、そのエコーもいい方向に作用し、充分鑑賞に堪える。演奏自体も大変丁寧かつ情熱的なもので、終戦直後の1947年でこれだけの演奏が出来たのか…と感心しきりである。…1857年創立の、イギリス屈指の伝統を誇るオケだもんなぁ…。第二次世界大戦で団員が極端に減ったのを、バルビローリが徴兵されなかった女性を中心にかき集めて何とかここまでのレベルにしたという。そういった意味でも凄い。オケの実力は全く現代と比べても遜色がない。…全曲にわたって「音楽を奏でられる悦び！」「演奏できることが楽しくて仕方がない！」といったヤル気が充満しており、エスプレッシーヴォなことこの上ない。特にフィナーレ！SP復刻の貧弱な音など物ともせず、物凄い歓喜の塊が聴く者を圧倒する。こうした演奏こそ、本曲の理想の姿である。録音の古さを演奏の素晴らしさが凌駕してしまっている。文句なしの満点。
　2020年6月にワーナーからバルビローリのEMI・PYE全録音109枚ボックスが出たので買ってみた。109枚組で1万円ちょっとという価格破壊。…発売された直後に買ったのに、何と11月9日まで聴けてなかった…！アホか…。HMV.co.jpの「欲しいものリスト」を整理していて、「…あれ…このボックス持ってるけど聴いてないよな…？」と思い出し、所有盤データベースを参照。…載ってた…。見事に買ったことを忘れていた…。HMVは買ったものには「購入済み」という表示が出るので、「二重買い」は防げた。…アブネー…。バルビローリの大手発売の3種のエニグマは全て含まれている。早速聴いていく。本CDもSP復刻だろう、スクラッチノイズがあるので。原盤もちゃんと表記されており、オーパス蔵と全く同じ「matrix 2EA 11926/32」であると書かれている。（…もっともこちらは「初出盤」として書かれているだけだが。）こちらもオーパス蔵に劣らず、非常に音質は良い。こちらもかなりエコーが入っているので、後付ではないかも知れない。192kHz/24bitでリマスタリングされている。（…SP復刻にソコまでのハイスペックが必要か…？とは思うが。）…やはり聴いていて大変胸がすく思いだ。名演だと思う。そしてやっぱり最終楽章が圧巻。こういう「…人生、そりゃあ色々大変なこともあったし、これからも色々あるだろう。だけど、私は挫けずに生きていくんだ！！世界は素晴らしい！！！」というオーラが物凄いことになっている。こういう曲なのだ。こういうフィナーレでないとダメな曲なのである。こういう演奏が、この曲には実に相応しい。評価を更にアップ。
　2021年9月に一番上のバルビローリ・ソサイエティ盤を入手。これが世界初CD化（「First CD Release」と書かれている）とのことで、モノラル音声を加工し、左右への拡がりを持たせている。かつ、針音は「全く」入っていない。この盤が一番音質が良い。盤には「オリジナル・マスターテープからマイケル・J・ダットンがディジタル・リマスタリングした」と書かれている。…道理で針音が入っていない訳だ…。元が名演なので、こうした高音質で聴きたいとは思う。…しかし、原盤の版権を持つ旧EMI、現在のワーナーがSPから復刻しているというのに、本当に「マスターテープ」があったのだろうか…？ちょっとアヤシイな…。「オリジナルマスターテープ」は、もしかしたらこの2枚組のCDのうちの、1956年録音の1枚の方だけかも知れない。（本CDのライナーノーツにも、「原盤」という意味なのか「初出盤」という意味なのか分からないが、上記のSP盤名が書かれている。）…但し、本当に音質はメチャクチャ良い。
（★★★★★★）

　1949年11月5日、ニューヨークでのライヴ録音。勿論モノラルだが、音質はなかなか良い。トスカニーニなので、冒頭の演出は余り細かくない。この人は余り叙情に溺れるということはしないので。（この人の勝負どころは、そこではない。）第2変奏のスピードはかなり速く、「お、ヤル気満々だな！」とすぐに耳を欹てさせてくれる。…トスカニーニが何もしない筈がない。以降も、変奏が進むに連れどんどんオケの表現主義的なアクの強さが、良い意味で聴く者を刺激してくれる。テンポは速いのだが、オケが必死にトスカニーニに付いていこうとしている様子が手に取るように伝わってくるので、それだけで、現代のさしてヤル気のない優等生指揮者の演奏より遥かに面白く感じる。勿論第6変奏等の叙情が必要な箇所はちゃんとそれなりに遅くしているが、余り極端なことはしない。うってかわって、第7変奏「トロイト」は大変素晴らしい。こういうハデなところは流石に上手い。第9変奏「ニムロッド」は、トスカニーニなのでそれ程叙情には重きを置かない。さくっと進めるが、オケがエスプレッシーヴォなので、不満を感じない。テンポも大事だが、一番肝心なのは「どれだけ一所懸命演奏しているか」、それだけだ。どんなに技術的に上手かろうと、小手先でチョイチョイと奏しているような「プロ擦れ」した「予定調和的な」演奏程、聴いていてつまらないものはない。トスカニーニは絶対にそんな演奏にはしない。第11変奏（ブルドッグのダン）などはもう本当に素晴らしい。…良い演奏は、音楽の方から自ら語りかけてくれるので、ながら聴き等をしていても、演奏の面白さにハッとして、心が自然に演奏に引き寄せられていく。勿論フィナーレなどは物凄いエスプレッシーヴォとキレを聴かせ、全くもって素晴らしい。これは満点にする他はあるまい。
（★★★★★）

　本盤の存在も、最近お世話になりっぱなしのTさまからお教えいただいた。国内ウェブショップでは軒並み在庫切れだったが、比較的マイナーな楽天内のナクソス・ミュージック・ストアに在庫があり、無事新品をゲットできた。（…尼や塔、犬が在庫切れでも、楽天には何故か在庫が残っている、というパターンが非常に多い。…所謂「穴場」だ。私はメインのクレカが楽天カードなので、ポイントが使えて嬉しい。）Tさま、ありがとうございました !
　⇒2021年9月4日、Spotifyにあるのを発見。…ホントに今後は殆どの盤がサブスクに開放されていくだろうね…。